impracticable theory 机上の空論

ポータブルオーディオ 主にカスタムイヤーモニター

UM Mage レビュー

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3ウェイ3ユニット4ドライバ構成のカスタムイヤーモニター

コストパフォーマンス抜群で,カスタムとしては珍しい高音よりのバランスという前評判に惹かれ思わず衝動買いしたMageのレビューです。



インプレッションは須山さんでとりました。


余談ですが,インプレッションの際に鼓膜にシリコンが当たらないように入れるスポンジや綿球があるのですが,須山さんはその素材にもこだわっており現在は非常に負担の少ない素材を使っています。
低反発の柔らかいもので,耳に入れるときのゴソゴソにした感じが少なく快適です。
須山さんでインプレッションをとると5000円で左右一組と確かに高いですが,技術も使用する素材も優れたものがありますので価格に見合わないことはないと思います。


閑話休題


インプレッションを送ってからMageが手元に届くまで20日弱,納期以内の対応でした。
内容物は下の写真プラス100均で買えるような安いケースでした。

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UMの標準的なパッケージですね。


ケーブルはUMケーブルではなくESケーブルを注文しました。
取り回しはすばらしくいいですね。音質も十分なものがあると思います。
ただ,音場が狭い傾向にあるので音場を重視する場合はUEのケーブルに替えるリケーブル屋さんに作ってもらうかした方がいいと思います。



シェルに関しては,非常に透明度が高く美しい出来映えです。この透明度はほかのメーカーでは見ないですね。
自分のポリシーとして,シェルは無色クリア・フェイスプレートにカスタムアートもなしを可能な限りすべてのカスタムで通しているので今回もそうしています。
シェルの見た目に関しては全メーカー中最高に位置していると思います。


一方,フィット感に関しては残念な感じです。


UE10を須山さんでリモールドしたものがフィットが良好なのでそれとの比較を…

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左がUE10,右がMageです。


きつめのフィットが好きなのでドラマー向けのように大きめに作ってほしいと依頼していたのですが,小ぶりな造形になっていました。
カナル部が小さく短いので遮音性が低く座りが悪いです。また,ヘリクスロックも短いので安定性も欠いています。
非常にぐらぐらした装着感で満足のいくものではありません。特に右側が小さく,音質にも影響を与えるレベルです。


わかりにくいので線を書いてみました。
はてなのお絵かき機能意外と便利ですね。。

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写真で赤線がヘリクスロック,青線がカナル部です。
Mageが異様にヘリクスが短いのがわかると思います。

余裕ができたら須山さんでリモールドしてもらう予定です。



再び余談ですが,須山補聴器用語ではリモールドはフィット感の調整のための削りや盛りを意味し,シェルの作り直しはリシェルというそうです。
UMなどではシェルの作り直しがリモールドなので紛らわしいですね…


  • バランス

UMから送られてきた周波数レスポンスがこれです。
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バランスは,評価が安定するまでずいぶんかかりました。
初めて聞いたときは非常にファットな低音が目立ち,高音は物足りないものでした。
ファットといってもだらけた音ではなく堅いイメージだったので決して悪くはなかったのですが,高音よりとの前評判とはかけ離れたものでした。


200〜300時間ほどエージングに必要との情報があったのですが,高音よりに聞こえるようになるまで確かにそれくらいかかりました。


高音よりになったからといっても,ER-4のように顕著なものではありません。
あくまでフラットの範囲内です。
自分の中でフラットの定義であるUE10と比較してやや高音が目立つ程度で,あらゆるジャンルに対応可能なバランスですね。


ただ,カナル部が短く細いので内耳内での共鳴による低音の増加が顕著になっている可能性が高いです。
最適なフィットに調整するともうちょっと低音が抑えられるのではないかと思っています。


  • 解像度


Mageの最大の特徴は,高い解像度です。
E8の圧倒されるほどの解像度ではありませんが,カスタムIEMの中では随一の解像度を誇っているようですね。
パッと聴きで,これは!と思えるほどのインパクトはあります。


特にストリングスの詳細は鳥肌が立つほどのものを聴かせてくれることもあります。
高音域はさすがはTWFKといったところで,すべての音が精細に聞き分けることができ,それでいて一体感を失うことはありません。


低音もCI22955らしく堅く太くでTWFKの高音に負ける解像度ではありません。
もっといい音源で聴きたいと思わせる解像度でMageを買ってよかった!と思うポイントです。
アコースティックギターは是非聴いてほしいところです。


  • 高音


高音の鳴らし方は独特で,シャーンとどこまでも伸びるようなシンバルが印象的です。
UE10のような太くバシッと決まるようなものではなく,333のようなすっきりかつ鮮烈なものでもなく,TWFKのいいところを余すところなく聴くことができます。


高音よりといっても,破綻するほど強い音が出るということではありません。
ほかのMage所有者も言われていることですが,爽快感というのがぴったりのイメージですね。
パーカッションなどは聴いていて楽しくなるほどの爽快感と疾走感があり,ライブで聴いているような感覚になります。
非常に細かく・冷たい音のシャワーという感じです。
それでいて痛くならないのは絶妙に調整されているところで,UMの技術力は侮れないですね。


細かすぎる高音が耳についてちょっときついなと思うときもありますが,ほかのIMEで聴き直すと不満に感じるので贅沢なものです。


  • 中音


ボーカル主体の曲を聴く方もMageなら満足できると思います。
やや堅めで乾いた音ですが,少し浮かび上がって聞こえます。
高い解像度と相まって目の前で歌っているかのような印象を受けますね。
2XSが女性ボーカルを得意とするのであれば,Mageは男性ボーカルの方が得意なようです。


女性ボーカルは場合によってはディップにかかるのか少しもやっとして聞こえることがあります。
優しい音といえばそうなんですが。。。
また,音量をあげると早めに破綻してくるので爆音で聴くのはおすすめできません。(難聴対策では言うまでもないですが…)


  • 低音


高音よりという印象に違ってしっかりと音量は確保されています。
UE10よりは少ないですが,膨らんだりだらしなくなったりすることはないのでドラムやベースの分離はしっかりしています。


ヘヴィメタルやヒップホップでも十分に聴くことができる量はありますが,轟くような音は期待できません。
ベースは頭の中にぐっと押し寄せるような音場なので迫力はあります。
ER-4Sではコントラバスが物足りなく不安定に感じた弦楽四重奏もどっしりとした基盤ができるので安心して聴くことができます。
それでいて解像度は高いのでBASS,BASS,BASS,BASS,BASS&BASS!のようなコントラバスのみの曲も楽しく聴けます。
和太鼓なんかもおすすめですね。


  • 音場


音場は狭いほうですね。Mageで最大の弱点です。横方向はそれなりですが,縦は狭く立体感は絶望的です。
解像度が高く精細な音なのですが,音場が狭いため音がひしめき合って不快に感じることもあります。
UEケーブルなどに交換すればずいぶん改善するのですが,取り回しのいいESケーブルも棄てがたくなかなか難しいところです。



アンプとの組み合わせですが,picoとの相性はかなりいいです。
狭めの音場をpicoが保管し,解像度も高く聴いていてとても気持ちがいいですね。
The Shadowとの組み合わせはおすすめできません。音場の狭さが顕著でMageの持ち味を全然生かせていません。
音場が広めのアンプと組み合わせるのがいいようですね。


  • 総評


今なら日本円でトータル5万少しという金額で購入できるコストパフォーマンスは抜群です。
音質も他社のフラグシップに近いものもあり,非常に魅力的です。


だた,UE10やUERM(Reference)を持っている人には大幅な変化・向上があるわけではないので強いて買うようなものではないです。
高音よりという比較的珍しいタイプの機種ですが,上記の2機種からは(解像度を除き)弱点が目立つように感じるはずです。
ボリュームをあげすぎるのもおすすめしません。中高音は早めに破綻してくるので(いないと思いますが)ステージモニターとして使うことはできないでしょうね。


333とは好対照です。得意なジャンルもかぶりはしないので,使い分けることができます。
コストパフォーマンスは圧倒的なので,1代目のカスタムや解像度を重視される方には非常におすすめできます。



うん,買ってよかった!