impracticable theory 机上の空論

ポータブルオーディオ 主にカスタムイヤーモニター

くみたてLab KL-REF レビュー

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1年ほど聞き込んだのでさすがにそろそろレビューを公開しようかなと… 

デュアルダイナミックドライバーを低音に使用したハイブリッド機で、くみたてLabのリファレンスの音になっているようです。
特徴的な音ですが、イヤーモニター史上最高の低音を出す機種だと思います。
また、シェルの美しさも特筆すべき点ですね。作成者のKumitateKさんも言っていますが、まさに傑作です。
クリアシェルの透明さが随一で、フェイスプレートなどはまっすぐ正面から見ると何もないかのように見える事すらあります。

 

 

シェルの造形について

シェルの高さは結構あり、結構耳から飛び出して見えます。低音調節機構にデュアルダイナミックドライバーと大きなものを複数配置する必要がありますし、中音・高音ドライバーはカナルに向かってまっすぐに音導管が伸びるようにレイアウトされているので、シェルが高くなっているようです。
ヘリクスやカナルは長めで、わりとシビアな装着感になりがちなところですが、痛みは全く無いように作られています。


反面、密閉性能はちょっと低く、音が抜けることがあったりします。リフィットを経てだいぶ改善はしましたが、正直なところ、装着感という点においては国内他社にはまだ劣ると思います。

 
カナル部は少し細めなのか完全な密閉が得られない事がままあります。後述しますが、それでもある程度の低音の量感を得られます。


今は利用できなくなっていますが、オーダー時はソフトカナルが設定出来たので、これはソフトカナルで作成しています。
ソフトカナルでも透明度が高く、ハードシェルとの接合もナチュラルでとても綺麗です。
Westoneのソフトカナルのような熱可塑素材ではなく、ハードシェルの周りを柔らかいグミのような素材で覆う構造になっているようです。
耐久性には少々難あり、コーディングが端から剥がれていってしまっているのが残念です。(ポケットに入れっぱなしにしていたりと運用が悪いという事は大きいと思いますが)
現在はソフトカナルのオプションはもう指定できないようになっているので、いろいろ苦労があったのかもしれません。

 

構造的な話

シェルの中を覗くとデュアルダイナミックの低音ドライバーがひときわ目立ちます。向かい合わせに配置された平行二発はオーディオテクニカの某機種とは違いプッシュ・プッシュで動いているとのこと。

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一般的なダイナミックドライバー採用機種によくあるような、装着時にドライバーがベコベコクチャクチャ鳴らないようにするための秘策として排圧制御があり、それによって鼓膜側の空気の圧力を適切に抜いてダイナミックドライバーが最適な環境で動けるようにコントロールしているようです。この排圧機構は前面ベントのようですね。

デュアルダイナミックドライバーを納めるために専用のユニットを3Dプリンターで作成されています。そのユニットから伸びるチューブの配置にはちょっとした秘密があり、いかに二つのドライバーが不均衡にならずに動かせるか、ということにかなり気を使った設計とのことです。
この3Dプリンタ製のハウジングはマイナーチェンジを経ており、最新のものではかなりコンパクトになっているようです。

 

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シェルのケーブルコネクター付近に小さなベントが空いているのがダイナミックドライバー使用機種っぽいですね。かなり穴は小さいので遮音性や音漏れには影響はないと思います。


中音ドライバーはカノンの中音と同じBAドライバーを使用。でもボーカルはキリッとセンターに定置して女性ボーカルとかはとてもいい感じですね。カノンと違ってこのドライバーが伸びる音導管は出口での掘り返しはありません。


高音BAドライバーはKnowlesのSWFK。(Knowles曰く)ハイレゾ対応の高出力の高音用デュアルドライバーです。大音量だと結構歪むはずですが、うまく歪感を低減してるようですね。ピークはそんなに出さずに刺さらないけど伸びてる印象です。高音の掘り返しで超高音辺りの調整をしているようです。掘り返しはそこまで太くなく長め。

 

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音導管は計三本で低中高それぞれ一本ずつあります。低音はかなり細くてローパスを、中音は普通に伸ばして、高音は掘り返しありです。音導管の太さだけじゃなく、長さもかなり厳密に作っているようです。さすが理論派の設計者だけはありますね。音響抵抗の位置もかなり厳密のようです。


一時期発売されていたKL-REF Type-Sはネットワーク設計は通常のKL-REFと同一で、この音導管の調整で音を変えているそうです。イヤモニ設計の面白く奥が深いところが感じ取れますね。


電気設計については、設計者曰く『ネットワークについては「叩いて伸ばす」をコンセプトに低能率で滑らかなサウンドを目指して設計しました。おかげでくみたてLabのラインナップ中で最多の素子を使用してます。』とのこと。それもあって比較的低能率に作られていますが、高音のインピーダンスだ低くなっているようなので、しっかりとしたアンプで鳴らしてあげた方がいいかもしれません。


こういったギミックが盛りだくさんで、この機種はUE18に並ぶほど電気・音響ともに設計を詰めたイヤモニじゃないかと思っています。カスタムで理想的な装着を得られる前提じゃないとできないレベルで設計を詰めていますね。

ただ、そのために作成難易度がかなり上がっていて、初期不良率もかなり高いように思えます。(1年以上も経った最近では製造に慣れてきて不良率も下がってきていると思いますが)

 

音質

もっとも特徴的なのはやはり低音です。
歪みなく柔らかく、素晴らしい解像度の低音です。また、排圧機構によるものなのか、超低音(おそらく一桁Hzから)の再生も可能です。
コントラバスの胴鳴りを再生しきったイヤーモニターはこれが初めてだったのでとても驚きました。鼓膜をぐっと押すような低音を感じられて、映画を見るときなんかにも良い感じですね。

 

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低音部には半固定抵抗があり、これをいじることよって低音の量を変えることが出来ます。
低音調節機構自体はJHの低音調節機構のように壊れやすそうな印象がなくしっかりしているのはいいですね。


低音調節でキーになっているのが、細い音導管を用いたローパスです。
低音調節の機種はロクサーヌにもありますが、ロクサーヌは低音を持ち上げると中低音まで一緒に持ち上がり、全体的な印象がもやっとした感じになってしまうのですが、KL-REFは低音のボリュームを最大にしても他の音域を邪魔することは一切ありません。見事にコントロールされた低音です。
可変の幅に関しては、最低にした状態では確かにフラット、個人的にはもう少し下げても面白いとは思います。最大ももう少し多くしてもいいのかと思いますが、破綻がない範囲内での利用なのかもしれません。
普段はちょうど真ん中くらいに設定して使う事が多いですね。Hip-Hopはテクノ系は低音最大にするととても気持ちいい、ライブで感じる揺るがすような低音も感じます。
最初にも書きましたが、現状では最も優れた低音を出す機種だと思います。


ローパスがきつめに働いてる影響か、中低音がよく言えばスリム、悪く言えばやせて聞こえます。中音へのかぶりとのトレードオフではありますが、ダイナミックドライバーやマルチBAにあるようなふくよかな中低音が好きな人には合わないでしょう。


試聴の際の注意点ですが、低音ドライバーユニットに搭載されている背圧機構の影響で密閉が完璧でないときでもそれなりに鳴らす事が可能です。しかし、完璧な密閉を得られる場合と比べ幾分も質が落ちるものです。視聴時にはその点を考慮においていた方がいいかもしれません。


中音はわりと珍しく、頭の真ん中でくっきりと声を描くような印象です。
Sensaphonicsの2XSに近いイメージで、女性ボーカルをしっかり聞き取りたい時などには最高だと思います。ギターも鮮やかでキレがいいですね。ただ先に書いたとおり、中低音がすっきりしているので、バスの男声などはやせた印象になることがあります。
8KHz付近のピークの影響もあってか、ボーカルが刺さるように印象を覚えることもあります。ただ、この中高音の刺さりは他のユーザーからは聞かないので、この個体固有のものか耳の形状との相性的なものなのかもしれません。
それ以外の高音は刺さらずにうまく伸ばしています。個人的には量的にすこし物足りないですが、一般的には十分だと思います。
FKを使った時にありがちな歪み感や雑な印象がないのはなかなかすごいかなと。
変なディップやピーク等はないので、嫌う人は少ないと思いますが、特筆すべき点もないというのが正直なところ…
高音だけインピーダンスが低いらしいので、アンプの性能を如実に受けるのかもしれません。


全体的には、すっきりとした印象の音です。
エッジを感じるような音ではありませんが、多ドライバー機種のような濃さはありませんし、ハイブリッド機でありがちな中低音がこもるようなこともありません。
音場は、低音は広がるように、中音は真ん中にびしっと、高音は少し狭めでしょうか。
トータルで見ると、かなり個性的な音だと思います。これがメーカーのリファレンスだと言われると、やっぱりくみたてLabってちょっと変わったメーカなんだなぁと思いますね。


付属品

標準ケーブルはなんというか、必要最低限という感じです。柔らかいので取り回しに困ることはないでしょう。
ケーブルの影響を受けやすい機種だと思うので、リケーブルでだいぶ遊べるかもしれません。
低音調節機構用に小さなマイナスドライバーが付いています。これは先細りの形状なので、ちょっと使いづらいかもです。ロクサーヌに付属していた同等品は先細りではないのでそっち方が使いやすいと感じます。

 

 

まとめ

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何度も書いていますが、現時点で知る限りカスタムインイヤーモニター史上最高の低音を出す機種だと思います。
今の価格においては非常にコストパフォーマンスに優れているので、もし興味がある場合は購入を強く勧めます。