impracticable theory 机上の空論

ポータブルオーディオ 主にカスタムイヤーモニター

THE SIRENS SERIES - Roxanne レビュー

JH Audioの新フラグシップ、THE SIRENS SERIES - Roxanneのレビューです。
カタカナ表記だとロクサーヌになるようですね。


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片耳12ドライバ、計24ドライバの世界最多ドライバ搭載機種です。3ウェイで低・中・高それぞれの帯域に4ドライバずつを割り当てています。
4つのドライバは1つのユニットになっており、SoundrIVe technologyと呼ばれているようです。
また、音導管の長さを調整することで鼓膜に到達する時点で全ての周波数での位相をそろえるFreqphase time|phase WaveGuideも搭載しています。

試聴もしない状態でオーダーしたのですが、聞くまでは完全に12ドライバ乗せたいだけのネタ機種だと思ってました。
ところが聞いてびっくり、非常に質の高いものです。全イヤモニ中最高峰に位置しているのは間違いないでしょう。


オーダーについて

オーダーから届くまで四ヶ月。その間何度問い合わせてももうすぐとしか返事して来ません。下手すると返事すらきません。
しかも後にオーダーした人のを一ヶ月以上先に作る始末です。どうなってると問い合せるとコピペの謝罪文を送ってきます。もうこういう会社なのだとあきらめるしかありません。
途中から来ない期間が長い方がネタになって面白いとか思い始めたくらいですね。オーダーする際は気長にお待ちください。
もうちょっとすると生産が落ち着いて早くできるようになるかもしれません。


ケースについて

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ネガティブインプレションを採用したカーボン製のケースはカッコイイです。とてもカッコよく中二心をくすぐります。でも実用性は皆無ですね。
重いし、開けづらいし、ネガティブインプレション故に納めにくし、すぐ壊れます。メタルのフレームにカーボンのケースを貼り付けているだけのようで、カーボン部を持って閉めようとしたらペリッとはがれてしまいました。
もう使いません。我が家で一番かっこいいタンスの肥やしになることでしょう。


シェル

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シェルはアートワーク無しのクリアシェルでオーダーしました。クリアシェル好きなのでカーボンシェルは初めから考えていませんでした。今までのもののすべてクリアシェルで作成しています。
シェルは結構綺麗ですね。個人的にはUMよりもいい出来だと思います。最近コーティングを変えたらしく、とっても滑らかでつやつや。透明度も高いです。
しかし、カナル先端に気泡が集中しているのがちょっと気になります。これはFreqhpase搭載機種の共通に特徴のようです。シェルの外側を作成し、ドライバと音導管をレイアウトした後にカナル部に樹脂を充填しているようです。
シェルは12ドライバを押し込めるためか結構分厚め。くみたてLabやFitEarのような飛び出しの少ないコンパクトさはありません。

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オリジナルのねじ式コネクタは4ピン。これにより低音調節機能を入れることが出来ました。反面、大きなコネクタを納めるためかヘリクス側はとても分厚いです。といっても3DDと同等くらい。
フィッティングはまずまず。好みよりはちょっと緩め。ただ一般的にはちょうどいいくらいだと思います、個人的に極端にきつめのフィットが好きなので。

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Freqphaseの為か、左右でドライバ配置に結構違いがあります。ただこれは音には影響はないようです。音導管の長さが正確であれば問題無いのでしょう。
搭載されているドライバはすべて特注品のようです。左右で型式が微妙に違ったりもします。クリアシェルなのでBAの型式もネットワークも丸見えだけど、ここで公開はしません。気になる人はTwitterとかで探してみてください。


音質

注意点として、今まで聴いた試聴機の音とは全然違うということがあります。
そもそも試聴機では毎回印象が違いました。ヘッドフォン祭2013秋ではUE18みたいなカマボコサウンドに聞こえましたし、ポタフェス2013では高音が旧JH16かと思うほど刺さっていました。こういう高音の刺さりはそれはそれで好きなんですが。
おそらく、試聴機の出来がとても悪かったんだと思います。一部の試聴機はユニバーサルのプロトタイプだったらしいので、ユニバーサルの出来がとても心配です。
最近出荷さえているユニバーサルはステム部が改善されているので、また違った印象になっていそう。ちょっと気になります。


閑話休題、カスタムの音の印象としては、とにかく超高解像度で分離が桁違いによく音場が広いです。12ドライバとかネタ機種だろうとか思っていましたが、めちゃくちゃ質がいいです。
特徴的なのはとても柔らかい音だと言うことですね。時に低音の柔らかさはBAでは聴いたことがないレベルです。
でも、柔らかいと言っても決して緩いわけでありません。むしろ高解像度と分離の良さと音場の広さが相まって非常にクリーンなイメージです。
クリーンというのは全体的なイメージでもあります。全域に渡ってピークもなくゆがみがとても少ないです。特にボーカルレンジが顕著ですね。
JH13のようなエッジを感じるクリアな解像度の高さではなく、柔らかいものの一つ一つの音を詳細にすべて聞き分けることができます。
楽器やボーカルの音の大きさだけでなく、それぞれの距離感が分かるような感じかなと。

他の機種と比較した場合一番差が出るのは、実は高音です。
刺さりはほとんど無いしピークも感じないのに耳にしっかりと残ります。残響もしっかり聞き取れ、非常に詳細です。
おそらく他のBA搭載機種ではあまりないほど超高音の音圧維持が可能になっていると思います。
独特の音の柔らかさも相まって、おそらくダイナミックドライバ好きが移行して唯一耐えられる機種だと思いました。
ピークがなく(ごく一部あるけど)聴くことにストレスを感じにくいのでいつまでも聴いていられそうですね。

低音は柔らかで高解像度、そして超低音までよく伸びます。柔らかさはゆがみが少ないためだと思いますが、ほんとにダイナミックドライバのようです。反面、CIのようなキレキレの低音が好きな人はダメでしょう。
音の輪郭をくっきり描くタイプではないですが、一音一音丁寧に詳細に鳴らし分けます。超低音での音階もしっかり聞き取れます。
ただ、後述の低音調整機構と相まって、中低音あたりまで持ち上がるので人によっては好き嫌いが分かれるかもしれません。

音場はとても広いです。上下左右に広く分離がよく定置もしっかりしています。これは他社のうたい文句ですけど、本当にまるで3次元を感じさせるほどですね。
数人が入れ替わり立ち替わり歌うような曲では、その際にそれぞれの立ち位置が分かります。コーラスの重なり合いがしっかり分かります。ビッグバンドでは楽器の距離感が分かります。
おそらくFreqphaseにより位相が揃っているためだと思いますが、これは他のイヤモニとは一線を画すレベルです。Roxanne最大の特徴だと思います。


低音調整機構について

ケーブルの根元から10cmの位置に可変抵抗があり、ここで低音を15db変動させることが出来ます。しかも左右独立して調整できるので、左右の聴力差がある人にも幅広く対応可能でしょう。
最小の状態にセットすると、個人的にはサブローがちょっと物足りなく、僅かにカマボコに感じます。09時くらいの位置でフラットと感じますね。
低音を強くするたびに、低音担当楽器に近づいていくようなイメージです。中低音まで一緒に持ち上がるので、ボーカルの印象もずいぶん変わります。男性ボーカルとかはどうしてもつられて腰が低くなってしまうのがちょっと気になります。
サブローがグッと持ち上がったような音が好きな人にはなじまないかもしれません。
最大にすると流石に盛りすぎですがこの状態、実は極小音量時に不足しがちな低音を保管できることでDAPの最小音量設定でも満足して聴けるというメリットがあります。これが低音調整機能の最大の利点なんじゃないかと思うくらい便利です。
でもやっぱり壊れやすいみたいで、グリグリ回して試してるうちに調整のノブが削れてぼろぼろになりました。ここは要改修だと思います。少なくとも二年くらいは耐えられる耐久性がほしいです。
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壊れやすいのはなんとかならないものでしょうか。音は間違いなく最高峰の一つだが、これほど壊れやすいと人に勧めるのは難しいですね。
あと、コネクタから10cmというのが微妙に邪魔で、プレイヤーをポケットに入れるとちょうど飛び出す位置です。もうちょっとケーブル全体を長く、低音調整部はケーブルから15〜20cmくらいの位置にすると取り回しがよくなると思うのですが…
黒ケーブルで初期にあったねじ式コネクタの破損は現在は解消しているようです。


よくないところ

弱点がないわけではありません。
特に残念なのは、ギターに鮮やかさが足りないことです。スチールガットの鼓膜を擦るようなザリッとした感覚がないので不満に感じます。
おそらく、ピークがほとんど無い事の副作用だと思いますが、個人的には高音はもうちょっと癖がほしいです。刺さるほどの高音が好きな人には不満が出るはず。
あと、ボーカルは厚みがありクリーンなものの芯があるような音ではないので、くっきりとしたボーカルが好きな人には合わないでしょう。その分近い位置で広がって歌うボーカルが好きな人にはたまらないものだとも思いますが...
個人的にはボーカルはもうちょっと引いてくれた方が好みですね。
低音ももっとキレがあった方が好きです。エッジ感が足りないと思うことは多々あります。


再生機器との相性

AK120直だとちょっと音が緩くなります。アンプを使用するとだいぶ締まった音になるので、駆動力はそれなりに必要なようです。
クリアな高音寄りのアンプがあれば相性がいいのではないでしょうか。
あまり多段にはしたくないのですが、駆動しきった音を聞いてみたいという興味に駆られていて危険です。


まとめ

全体的にみると、質は高いものの気持ちいい鮮やかな、耳障りのいい音を奏でる機種ではないと思います。萌音であったようなキレキレの叩きつけるような低音ではないですし、UE10のような鮮やかなギターはないです。2XSのようなくっきりとしたボーカルもないです。
しみじみと深く感心するようないい音ですが、感動してテンションがあがるような気持ちよさはありません。
ですが、RoxanneにはBAでは未だかつてなし得なかった柔らかさや超高音の延びがあります。このサイズのダイナミックドライバーでは到達しない高解像度があります。多ドライバ故の濃さがあります。比類なき分離と音場の広さがあります。
それは、弱点を補ってなお余りあるものだと思います。おそらくこれがRoxanneでJH氏が目指したものなのでしょう。
そういえば、先日ディスコンになったJH-3Aの開発時の目的とされていた位相の改善はFreqhpaseで解決出来ていますし、JH-3Aにしかなかった低音調整はケーブルに内蔵されています。
完膚なきまでにJH Audioのフラグシップということなのだと思います。

結論としては、音としてはとてもお勧めできます。柔らかい音が嫌いでないなら是非購入を検討すべきですね。
ただ、納期の長さや壊れやすさについては、お覚悟のうえ…





おまけ

Roxanneはハイレゾ対応してますよ。ほら、バッチリ!

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おまけ その2

f:id:impracticable_theory:20140530230818p:plain:h16,left Roxannneのf特をひっそり貼っておきます。
6,7KHzあたりと12KHzあたりの強烈なピークは測定環境固有の癖なので差し引いて見てください。あくまで雰囲気を知るために小ネタのようなものです。
そもそもf特だけで音質が語れるものではありません。特にこのグラフは単体のf特なので、同条件の他機種との比較にも使用できません。
さて、ざっとみると15KHz以降にピークを作っているのは見事ですが、さすがに商品説明に記載されているように23KHzまで落ちないというわけにはいかなかったようです。3~4KHz付近のちょっとしたピークはボーカルの表現に影響してそうです。
f特はあくまで参考程度にしかならないですが、見ているとなかなかおもしろいですね。
ちなみにこのレビューはf特を見る前に書いたもので、f特を見た後も加筆・修正はしていません。完全に聴いたイメージだけで書いたレビューですのでご安心(?)を。