impracticable theory 机上の空論

ポータブルオーディオ 主にカスタムイヤーモニター

Sensaphonics Prophonic 2XS

はじめに…
現在私の2XSは断線したため須山ハードシェル化されています。
そのためこのレビューは思い出しながらのものになっています。
誤差や誇張があるかもしれませんがご了承ください。




フルシリコンモールドで有名な2XS
というかフルシリコンは2社くらいしかありませんけどね(笑)
Sensaphonics社とUKのACS社。

須山さんでもフルシリコンの試作はありますがマルチドライバはかなり難しいようですね。
素材が柔らかいことからドライバを耳道内にセットする事が難しくなります。
耳殻にドライバを置く必要があるため鼓膜からドライバが遠ざかり,ドライバ間の距離も長くなります。
それ故クロスオーバーでディップが生じやすくなります。
また,シリコンは高音をかなり減衰させるので更にディップが発生しやすくなり,ハイ落ちのバランスになりがちです。


また,シェルそのものが曲がるためシェル内の配線に負荷がかかり断線しやすいのですが,ハードシェルのように中を開いて修理する事が不可能な為故障率は高くクリティカルです。
また柔らかい素材ですのでケーブルを直結せざるをえず,ケーブルが断線した際には作り直しとなります。



と,これだけの欠点がありながらも何故シリコンにこだわるのかといいますと…






つけてみればわかる!!!!!!






一度でも装着すればわかりますが,装着感が素晴らしくいいです。
というか装着感がほぼありません。
シェルよりもケーブルが気になる程で,何時間でも着けてられるんじゃないかと思うほどですね。


シェルがかなり柔らかいので装着にはやや手間取りますが,装着後しばらくたって体温が馴染んだ頃には装着していることすら忘れるようになります。


シェルはケーブルが直結なだけあってコンパクト。耳殻から飛び出る部分はありません。


また遮音性も高く,ユニバーサルのトリプルフランジに匹敵するほどです。
カナル型イヤホンでありがちな自分の足音などもさほど気になりません。
2XSはインピーダンスがやや高めなのでホワイトノイズも少なく,環境音も遮断されるのでアイソレーションは極めて良好でした。

他のカスタムイヤーモニターと比較しカナル部が長く(具体的には耳道の第二カーブの先数ミリにいたるまで),耳塞栓効果を低減しています。
つまり装着時に声を発しても頭の中で響きにくい作りとなっています。
ボーカリストにとっては重要な要素ですが,ハードシェルでは難しくシリコンモールドならではのものになります。


フィッティングですが,実は2回削り直しを行っています。
最初に装着した際,左の低音ドライバからまったく音が出ていませんでした。
カナル部の曲がりが実際より弱く,そのため装着時のみ音導管が曲がり,圧迫され音が通らなくなっていたようです。
この現象はSensaphonincs本社でも把握しておらず、耳道が薄く曲がりの強いと言われる日本人独特の現象だそうです。
おそらく耳型のインプレッションが綺麗にとれていなかったのではないかと。
実際、UE10や須山カスタムと比較し小ぶりな作りになっていました。
インプレッションはハードシェルのものよりシビアになるのでしょうか。




ケーブルは私が購入した後でアップデートされたので現在のものとは異なります。
分岐前後で異なるケーブルとなっています。
分岐以前は通常のより線のようですが(ただし皮膜なし),分岐後は非常に細いケーブルになっています。
テフロンコートされておりやや固いのですが,うまく耳に回すと一見して存在がわかりません。
分岐後は癖がつきやすいので保管には注意が必要になります。


前述のコンパクトなシェルとケーブルの細さが相まって装着していてもほぼ見えません。
このあたりはステージアクトを主眼に置いてデザインされているようで好印象ですね。









さてイヤーモニターとして最も重要なファクターである音質についてです。



シリコンモールド使用者が軒並みあげられるポイントですが,低音が特徴的です。
量感があがることは勿論なのですが,表現しにくい独特の感覚があります。
なんというか… 柔らかい素材を通じて低音の振動を感じるというか,胴鳴りを柔らかくしたイメージでしょうか?
なかなか言葉にするのは難しい…



ミッドレンジにディップがあるのですが,個人的には気になりません。
それよりも一番のポイントは高音にあります!
ハイに一部ピークがあるのですが,それによりボーカルがくっきりと浮き上がるようになっています。
特に女声が素晴らしく,繊細かつ艶やかなボーカルは未だ2XSを上回るものがないほどです。
Sensaphonics自身ボーカリスト用と銘打つだけはあり,如何なる音にも埋もれることなく完璧に伝えてくれます。
逆に言うとボーカルが浮いてしまう印象を受けることもありますが。。
特にその特徴は低音量時に発揮され,ボリュームを下げたとしても詳細が失われることはありません。
流石はオーディオロジストがCEOを務める会社がデザインしたイヤーモニターだけはありますね。

このハイのピークは人によっては違和感を感じるようですが,むしろそれは意図された設計ではないかと考えています。
音域の広い楽器は苦手ですが,ボーカルの艶やかさはそれを補って余りある素晴らしいものです。
ボーカリスト,または特に女声を好んで聴く方にはマストな選択肢になるはずです。


解像度はUE10と比較しやや劣り,ユニバーサルのイヤーモニター等には勝ります。
ただ,全体的に柔らかい音作りなのでしゃっきりとした感じはないです。むしろ刺激がないようにできる限りエッジを削いでいるに感じます。
低音担当のドライバの解像度が低めで,さらにハイ伸びないので見かけ上の解像度は低く感じられますが,モニター足りうる解像度は十分に持っています。
特に高音ドライバは非常に繊細な(悪く言えば細い)音を奏でます。



音場は広くはなく,特にベースなどは頭の真ん中でなっているように聴こえます。
高音域は比較して広く耳のやや外側まで広がる印象です。
上下もわかりやすいので狭いながらも立体的に把握出来ます。



以前はよくShureのE5cと似ていると言われていましたが,あのような乱暴なイメージの音ではありません。むしろはるかに滑らかで上品な音です。
ShureのE5cと似ているというイメージは当時はそれとER-4くらいしかユニバーサルIEMがなかったからでないでしょうか?


全体のバランスはフラットの範囲内でありながら,シリコンの特性やコンセプトを考慮した絶妙なバランスで仕上がってる逸品だと思います。





こんな感じでかなり気に入っていたんですが,購入から2年ほどで断線。シリコンは寿命が短いというのは真実のようです。
現在は須山氏にハードシェル化をしていただいていますが,ミッドのディップとハイ落ちがなくなり非常にブライトな印象になりました。
その分低音が弱くなり,また歯擦音もかなり気になるので音響抵抗をセットできるように削ってもらおうかと考えています。




# そうなると気になるはACS社… Sensaphonicsよりさらに
# 柔らかい上にトリプルドライバまであるらしい