impracticable theory 机上の空論

ポータブルオーディオ 主にカスタムイヤーモニター

アンビエントノイズはノイズたりえるか (遮音性と周囲の聴きたい音について)

アンビエントノイズはノイズたりえるか


初っぱなから意味がわからないタイトルですが,今回の記事は


遮音性高めたら周りの音(アンビエントノイズ)が聞こえなくなるけど,ノイズではない周りの音を聞きたくなったら困るよね?どうすんの?


という感じでございます。



さて,このブログの本題になりつつあるカスタムイヤーモニターですが,その主眼は快適性と遮音性にあります。


快適性を最高にまで高めるために,個々人の耳型をとり,それを元にして(ほぼ)完全にフィットした造形のイヤホンにします。

また,よりよいフィットは耳穴をぴったりと隙間なく埋めることができるために,遮音性にも貢献します。


高い遮音性の魅力は,どのような環境にあっても音楽に没入できることでしょう。
たとえば,ウェッジが鳴り響くステージ上で正解に演奏者の音をモニタリングするために。
たとえば,うるさい地下鉄の車内で快適に音楽を,詳細漏らさずに聴くことができるということ。

いつでもどこでも自分用の快適な音楽空間を得られるというメリットは一度体験すると手放しがたいものがあります。


カスタムイヤーモニターの遮音性はメーカーによって表記が異なりますが大体20〜30デシベル程度の遮音性があります。

体感的には,大体ER-4Sの三段キノコを使ったときの遮音性と同等かやや劣る程度の遮音性ですね。
この状態で何も音楽を鳴らさない場合は,(小さいながらも)周囲の音を聞き取ることは可能です。

しかし,音楽を鳴らし始めると,周りの音を聞き取ることはほぼ不可能になってしまいます。


自宅だったらいいですが,街中で周囲の音が聞こえない状態というのは非常に危険です。
車のクラクション・注意を呼びかける人の声・警報音など様々な[聞くべき]音を聞き逃してしまい,その結果危険に身を置く結果になりません。

須山さんの言葉を借りるなら,[自分が被害者になるだけではなく,他の人を加害者にしてしまう可能性がある]ということです。


また,ステージ上でもアーティストとしても,周りの音が聞こえないために観衆の声援や拍手などを感じれず,疎外感を感じるということが多々あります。
私がライブに行くときは,基本的にER-20+カスタムチップといった音質に影響を与えない耳栓を使用しているのですが,それでも周囲から疎外感を感じることがあります。

自ら観衆にそれを求めてるアーティストとしては,応じる声が聞こえないということは非常に大きなストレスになるのではないかと思います。



それらの[聞こえない]問題に対処するため,2つの方法がとられています。

一つは,遮音性を下げること。
もう一つが,周囲の音をマイクで拾い,適切な音量でイヤーモニターへと返す方法です。



遮音性を下げるというアプローチは,遮音性が高くて周りの音が聞こえないなら,遮音性を下げればいいと,非常にわかりやすいです。


ただ,せっかく周りも音が聞こえないように遮音性を高めたものを,周りの音を聞きたいが為に遮音性を下げるという,アイデンティティレベルでの矛盾が発生します。

UEのカスタムプロダクツでは[アンビエントオプション]なるものがあります。
シェルに穴を開けることにより遮音性を半分程度に低めることができます。
穴をふさげば本来の遮音性を取り戻すことができます。

須山補聴器のFitearのプロミュージシャン向けの製品のオプションでは,周りの音を取り込む為に開けた穴に音響抵抗を設置し不必要な音をできる限り拾わないように調整しています。
つまり,必要な音域のみ遮音性を下げる,というアプローチです。
とはいえ音響抵抗は低音域の微調整は困難でなかなか難しいとお聞きしています。



周囲の音をマイクで拾い,適切な音量でイヤーモニターへと返す方法に関しては,ShereのE500に同梱されていたPTH(Push-To-Hear)がすでに市場に出ています。

http://www.amazon.co.jp/dp/B00101AKLW
まだ売ってますね…

なかなか面白く便利なツールだとは思うのですが,下手なプレイヤーよりも大きいということが難点で,早々にPTHを含まないSE530が発売されることとなり,いわば黒歴史に近いものに成り下がっています。


ステージ上では,アンビエントマイクという周囲の音を拾う専門のマイクを設置し,それをPAが調整してミュージシャンのイヤーモニターに返すという方法をとります。
このアプローチの弱点は,アンビエントマイクの位置とPA(と機器)のスキルによっては逆効果になることがあるということです。

ミュージシャンがA地点にいるのにB地点のアンビエントマイクの音を届けてしまったら… 疎外感を感じるどころではなく,意味不明なアクションをとりかねません。

日本のライブやコンサートではアンビエントマイクをあまり用いていないようです。
欧米では積極的に用いるようになってきたので,日本でもそのうち利用されるようになるでしょう。


周囲の音をマイクで拾い,適切な音量でイヤーモニターへと返す手法で特筆すべきなのが,Sensaphonicsの3D Active Ambientシステムです。
http://www.sensaphonics.com/prod_3d_ambient.html

    このブログではやたらSensaphonicsを押しますが,
    中の人ではないです(笑)
    ただ単にセンサが好きなだけです。


これは,イヤーモニターのシェル自体にマイクを設置し,それを専用の機器を使って3次元的に解析しモニターに送るという画期的な製品です。
耳の位置に左右それぞれマイクがあるので限りなく正確に周囲の音を再現することができます。
マイクのサイズの制限から低音域の再現性は厳しいですが,ステージ上では周囲のそれがあり,また低音は遮蔽しにくいため問題になることはないでしょう。
ただ非常に,いえ異常に高価だということを除けば魅力的な製品です。



では上記の手法いずれもとれない場合はどのようにすればいいのでしょうか。


外部の音を聞くのに一番簡単な方法は,身も蓋もないですが装着しないことです。
でもこれじゃ前提自体を否定しているので意味のない回答ですね。


じゃあどうすればいいのかというと。。。

私が行ってる方法は段階的に3つあります。
まぁ誰でも考えつくようなことですが。。。


まず音楽を止める
音楽を止めるだけでかなりの音を拾えるようになります。電車のアナウンス程度であれば問題ありません。


次に,半分だけ外す

完全に外してしまうのではなく,ヘリクスロックを残してカナル部を少し浮かせるようにします。


f:id:impracticable_theory:20090725130220j:image
イニシャルがある場所がヘリクスロックで,カナル部はご存じ耳穴に入る部分ですね。


こうすることにより,外の音を入れつつ元の装着にも素早く戻せます。

須山補聴器のカスタムは珠間切痕(一番下になる部分)に引っかかりがあり,容易に外せるようにしています。


通常カスタムイヤーモニターを外す場合は回すように外しますが,そうするとヘリクスまで外れてしまうのでまっすぐ上に浮かせるように外の音が聞こえるまで外します。
ヘリクスロックが外れない限り,耳から落ちることはほとんどありません。
そのまま押し込めば素早く完全な遮音を取り戻すことができます。


最後に,完全に外す。
片耳だけ外すという方法もありますが,方向の確認がとりにくくなり結局両方とも外すことが多いです。



その他,どなたかお勧めの方法がありましたらお教えいただけますでしょうか。



この遮音性とアンビエントの話,根本的な問題だけに奥が深く,なかなか面白いテーマです。

こういう感じのシリーズものも日記に取り入れていきたいですね。





ふーーー長文つかれたーーーーーーー!!!!